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書籍㉖ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか

タイトル    ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか

出版社    日経BP

著者     酒井大輔

価格(税別) 1,760円

 

中小企業経営者     ☆☆☆ 

中小企業診断士勉強者  特に必要なし

 

<内容>

 今話題のワークマンについての書籍です。

 

 2012年4月、ベイシアグループ創業者の土屋嘉雄会長(当時)が常勤顧問として招き入れた一人の男がワークマンを成長企業へと変貌させた。その男は、土屋哲男(現ワークマン専務・以下土屋氏)、嘉雄会長の甥にあたる。

 

 三井物産で世界を飛び回っていた土屋氏は、入社時ワークマンを、すべてマニュアル化されており、誰でも運営できるシステムが確立されており、誰にでも引き継げるし、あまり頑張らなくても成果を出せる会社であると感じていた。そしてその理由はベイシアグループのDNAがオペレーションエクセレンシー(優れた店舗運営能力)にあると思った。つまり運営力を伸ばし、店を標準化する、マニュアル化する、余計なことをしない、例外はつくならないことである。さらに、本部が持っている商品はほぼすべて店に並べ、定価販売を上げ、値引きを一切せずに売り切っていた。

 しかし、同時にこのままで良いのかと感じた。「オペレーションが強くても仕入れ品を安く売るだけでは、ブランド力はつかない。やはり製品までやらないと駄目なんじゃないか」。土屋氏の頭に浮かんだのは、ユニクロ、ニトリであり、PBを自社で開発するSPAにならないとワークマンはこれ以上成長するのは難しい、このままでは1000店舗、年商1000億円が関の山だとそろばんをはじいた。

 

 2014年、土屋氏が中心となって「中企業態変革ビジョン」という名の3箇条を社内外に宣言した。

 ①社員一人当たりの時価総額を上場小売企業でナンバーワンに

 ②新業態の開発:(1)客層拡大で新業態へ向かう。(2)データ経営で新業態を運営する準備をする。

 ③5年間で社員年収を100万円ベースアップ

この中で②と③を実際に目指した。特に新業態が1店舗、2店舗でもうまくいったら、後は栗山社長に任せれば完璧に広げてくれる自信があった。オペレーションエクセレンシーの会社から、ユニクロ、ニトリになるという高い目標をあえて掲げた。

 ハードルになったのが在庫に対する考え方で、ワークマンは効率経営を重視したため在庫を持つことをタブー視していた。そこでテストで作業着のPBを製造、販売したところ確かな手ごたえを感じ、一般向けPBの開発に着手した。

 

 2016年以降、スポーツウエアの「Find Out」、アウトドアの「Field Core」、防水ウエアの「AEGIS」という3つのPBブランドを立ち上げ、自社で開発し、社員自ら来て試すという会社を挙げてのライフテストにより商品力は見違えるほど向上した。しかしながら、売上は年間3~4%しか伸びず、売り方を100%変えることとした。

 それは、上記のPB3ブランドを軸に街着として使えるカジュアルウェアやレインウェアを集めた新たなコンセプトストアをワークマンとは別の名前で出店することであった。この時に土屋氏は一見すると飽和状態のアパレル市場の中に競争不在のブルーオーシャンを見つけたのである(機能性+普及価格)。そしてその市場を4000億円と見積もった。

 

 ワークマンは消費者に1円でも安く商品を届けるために、商品原価率を65%を極めて高く設定している。そのため、新店の家賃は3%に抑える必要があった。そこで都心ではなく立川のららぽーと立川立飛のリニューアルを機に出店した。その時に三井不動産の担当者から店名にワークマンを入れた方が良いとの助言があり、店舗名は「ワークマンプラス」となった。

 そこでの記録的な売り上げを元に、ワークマンプラスとしての店舗の標準化、マニュアル化を進めて出店攻勢に出ることとした。2店目、3店目から出店するたびにABテストを行いデータを蓄積し、3キロ圏内の人口が30万人近くあり、駅から徒歩10分以内なら大ヒットするという結果を得て、全国展開に踏み切った。

 

 この新業態への進出の合わせて土屋氏が行ったことが、アナログワークマンからデジタルワークマンへの変更、つまりデータ経営の導入だった。それまでのワークマンは作業着だけの販売のため勘と経験で何とかなった。そのため在庫数などの数量データが無かった。

 しかしながら、土屋氏は従業員にデータサイエンティストになることではなく、エクセルにPOSデータをダウンロードして、日々の販売データを見て異常値を発見したり、次にどんな手を打てばいいかを考える力をつけてもらうことを期待し、そのための育成カリキュラムを構築した。これはAIの導入などをするよりもエクセルの方が自分で考えるようになると考えているからである。現在では、データ分析ができることが部長等になる必須条件となっている。

 

 現在ワークマンの売上の中のPBの売上は半数を超えており、その生産は海外のメーカーにお願いしている。そして繁閑期を避けて製造してもらい、製造した量は全て買い取っている。またPB以外の商品は国内メーカーから仕入れており、こちらもすべて買い取りをしている。製造数量はワークマンのデータをすべて開示することによりメーカーが決めている。これは定番商品が多いため、発注誤差をプラスマイナス20%でも在庫が余ることなないとしているからである。

 

 ワークマンでは店頭在庫が1個しかない商品が全体の7割を占めるというロングテール経営を続けている。そして、これがワークマンの最大の強みとなっている。

 約100坪の店舗で1700アイテムを置いている。そのため、予想だもしなかった売上につながることがあった。職人用のレインスーツがバイク乗りに人気になった。綿かぶりヤッケがキャンプでのキャンプファイヤーに最適だと人気が出た。ワークマン内では高価格品と思われていたメリノウール製のソックスが登山をする人に高品質で安価なソックスとして人気になった。これらはSNSで拡散され人気が広がったのだが当時は全く気が付かなかった。

 そこで現在ではSNSなどのインフルエンサーを「製品開発アンバサダー」に任命し、社員と一緒に商品開発をしてもらっている。イベントなどにも参加してもらっているが、金銭的なつながりは無く、本当のファンとしてアドバイスをしたもらっている。

 

 店舗運営に関しては、現在ワークマン及びワークマンプラスとして運営している店舗を増やしている。店舗の看板、店内照明や香り、BGMを変更して、職人相手の早朝と夕方はワークマン、昼間は一般客対象のワークマンプラスとして変身している。しかしながら商品は全く変わっていない。この変身店舗をラボのように運営して今後の店づくりに生かしていく考えだ。

 同じ考え方で、商品を変えずに見せ方を変えるだけで、レディース、シューズ、レインなどの専門店を出店することも現在検討している。それにより効率性を変えずに、競合との争いをできるだけ避けていけると考えている。

 

 この新業態への進出によるワークマンの大変身の中で変えたことと、変えなかったことがある。

 

●変えたこと:①オペレーションエクセレンシーからプロダクトエクセレンシーのSAP企業へ

       ②「前例踏襲」の経営からなんでもデータを見て変えていく経営に

       ③「本気の経営」-言ったことは必ずやるというすごみを見せる

       ④トレードオフ経営ー頑張る代わりに何かを捨てる

●変えなかったこと:①標準化経営

          ②ローコスト経営

          ③やらないことが決まっている経営

          ④ステークスホルダーは長期固定「親友を裏切らない」

 

<感想>

 参考になるところとならないところがもちろんありますが、①勘や経験からデータによる経営、②同じ商品でも見せ方により顧客を変えてみる(見せ方により顧客を変えてみる)、③標準化経営などはすぐにでもマネできる、マネしたいことだと思います。

 

 規模が違うのでといってあきらめてしまうよりは、売れている企業にはそれなりの理由がありますので、その理由を調べて参考(マネ)できることは是非挑戦してみましょう。

 

 コロナによりどの業種、業界も大変になってきているだけに、新しいことに挑戦してみることは大切だと思います。失敗したらまた新しいことに挑戦すれは良いだけですから。